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宇都宮地方裁判所栃木支部 平成3年(ワ)49号 判決 1993年3月10日

原告・反訴被告(以下単に「原告」と謂う。)

有限会社セキグチ工業

右代表者代表取締役

関口利男

右訴訟代理人弁護士

須黒延佳

被告・反訴原告(以下単に「被告」と謂う。)

リブコンエンジニアリング株式会社

右代表者代表取締役

老川昭穂

右訴訟代理人弁護士

山口英資

鈴木克昌

主文

原告の本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中、本訴に要した分は原告の、反訴に要した分は被告の、各負担とする。

事実及び理由

一左記事実は当事者間に争いが無い。

1  原告は鉄骨工事等を、被告は機械装置の製造販売等をそれぞれ業とする会社であるが、原告と被告は、平成元年三月一四日、被告を注文主、原告を請負人として、コンベアーバックホー試作機(以下「本件試作機」と謂う。)一台を代金一四六〇万円で製作する旨の契約(以下「本件契約」と謂う。)を締結したこと

2  被告は、平成元年四月一九日、原告に対し、本件契約に基づく代金の一部として金七〇〇万円を支払ったこと

3  被告は、原告に対し、平成二年一一月二〇日到達の書面により、本件契約を債務不履行により解除する旨の意思表示をしたこと

4  原告は、被告に対し、平成二年一二月一二日到達の書面により、本件契約に基づく残代金及び追加工事代金合計九五八万七五三四円を右書面到達後一週間以内に支払う様催告したこと

二原告は、

(本訴請求につき)

1  本件契約及びその後の被告の改造指示に基づき、平成元年五月二七日、本件試作機の製作を完了し、被告立会いの下で試運転を行ったところ、被告は、更に改造、改良すべき点があるということで、原告に対し、右改造、改良工事を依頼した

原告は、右依頼を承諾し、被告と協議の結果、本件契約に基づく代金残額七六〇万円は同年六月二日迄に支払う、既に被告の指示に基づいて行っていた改造工事及び今後の改造・改良工事はいずれも追加注文として、その費用を別途支払う旨の合意が成立した

2  原告は、右合意に基づき、直ちに改造・改良工事に着手したが、平成元年六月二日を経過するも、被告が本件契約の残代金の支払いをしないので、右工事を一時停止すると共に、なすべき改造工事の内容につき協議を行った結果、同年七月三日、追加注文とする改造工事の内容及び代金につき合意に達し(代金は金一九八万七五三四円と決定された)、代金は近いうちに支払うので先ず工事を再開して欲しい旨の被告の要請に応じて、改造・改良工事を続行して、同年八月末頃に、右改造・改良工事を完了した

として

「被告は、原告に対し、金九五八万七五三四円及びこれに対する平成二年一二月二〇日以降完済迄年六分の割合による金員の支払をせよ。」との判決を求めると共に、

(反訴請求につき)

請求棄却を求め、

1  原告は、被告から交付された設計図及び被告の指示に基づき、本件試作機を製作、完成させたものであって、完成した本件試作機が被告の期待した通りの性能乃至機能を有しなかったとしても、これは構造上の欠陥、即ち設計上の過誤であって、原告の責任では無い

2  被告が第三者から本件試作機の設計、製作を代金一七四〇万円で受注していたことは否認する

と述べた。

三被告は、

(本訴請求につき)

請求棄却を求め、

1  原告が、本件試作機を完成させていない以上、被告は本件契約に基づく代金の支払義務はない

2  原告主張の追加見積には、改造ではなく、本来備えているべき装備の装着を要求した部分をも含まれており、被告に於いてこれを認めたことはない

と述べると共に、

(反訴請求につき)

1  本件契約は、本件試作機の単なる製作のみではなく、開発の意図に沿う設計も含まれており、納期は、平成元年四月末日、残代金は完成した本件試作機の納入と引換えに支払う約束であった

2  原告は、本件試作機を完成させることなく、その設計及び製作を一方的に放棄してしまったが、被告は訴外日本エコノテック株式会社(以下「(株)エコノテック」と謂う。)から本件試作機の設計及び製作を代金一七四〇万円で受注していたものであって、原告の右債務不履行により右代金を受領することが出来なくなった

3  従って、原告は、被告に対し、(1) 契約解除に基づく原状回復として、既に受領している代金七〇〇万円の返還義務及び(2) 契約解除に基づく損害賠償として、被告が受領することができる筈であった代金一七四〇万円と原告に支払うべき代金一四六〇万円との差額金二八〇万円の支払義務がある

として、

「原告は、被告に対し、金九八〇万円及びこれに対する平成元年五月一日以降完済迄年六分の割合による金員の支払をせよ。」との判決を求めた。

四当裁判所は、原告の本訴請求及び被告の反訴請求はいずれも理由が無いから、棄却すべきものと判断する。

1  <書証番号略>、証人猪股恒雄の証言、原、被告各代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を併せると、

(1)  本件試作機の製作は、当初、(株)エコノテック、訴外株式会社ミヨシ製作所(以下「ミヨシ製作所」と謂う。)及び訴外日本ローディング株式会社(以下「日本ローディング」と謂う。)三社の所謂共同開発事業として発足し、ミヨシ製作所が設計・開発及び製作を担当して行われていたが、ミヨシ製作所の倒産に伴い、同社の従業員を原告及びその関連会社が引継ぐと共に、(株)エコノテックの代表者である訴外冨川幸一(以下「冨川」と謂う。)が被告の建設機械事業部長に就任したことを契機として、発注者を被告に変更した上、原告がミヨシ製作所に代わって本件試作機の設計及び製作をも引き継ぐこととなり、本件契約が締結されたこと

(2)  原告は、本件契約に際し、本件試作機の製作に従事する元ミヨシ製作所の従業員であった訴外猪股恒雄等から本件試作機の基本的な設計図面は畧完成されている旨の報告を受けていたこともあって、右図面に従って本件試作機を製作すれば、それで本件契約で定められた業務が終了するものと考え、(株)エコノテック、ミヨシ製作所及び日本ローディング三社間に交わされた共同開発事業に関する覚書等には留意することなく、また設計の点についても特別被告に質すことなく、「納期は平成元年四月二〇日」、「支払条件は別途協議」と記載された注文請書を送付することによって、本件契約を締結したこと

(3)  原告は、契約時に金七〇〇万円を支払う約束であるにも拘らず右金員の支払いがないとして、本件契約後直ちに本件試作機の製造を順延していたが、被告から右金員が支払われた平成元年四月一九日頃から本件試作機の製造に着手し、同年五月二七日には一応の試運転を行って今後改造・改良が必要不可欠な部分を検討し、その旨を直ちに被告の担当者である冨川に伝え、被告も、右改造・改良に伴い設計変更となる部分については追加契約とし、その内容及び代金について後日協議の上、本件試作機納入時点で清算することを承諾したこと

(4)  その後、原告は、本件試作機に前記の設計変更に伴う改造・改良工事を行ってこれを完成させると共に、冨川等立会の下に数回にわたり本件試作機の試運転を繰り返し、その都度、発見されたオイルタンクの温度の上昇、油洩れ及び油圧モーターの破損、チェーンの切断等についても逐次被告の指示に従って補修等を行ってきたが、平成二年一月一九日、本件試作機が完成したということでコンベアーを作動させてズリ(土石類)を搬出させたところ、コンベアーのチェーンとシャフトとの間の動力伝達機構である補強ボス付スプロケットが溶接部分で分断し、シャフトが破壊されてコンベアーが停止してしまったこと

(5)  冨川は、右補強ボス付スプロケット分断の原因が溶接部分の不良にあるとして、原告に対して、再溶接を要求したが、本件試作機が予定した機能を発揮しないのは基本的な設計自体に問題があり、冨川及び被告もそのことは充分承知している筈であると考えていた原告は、残代金及び追加改造の代金の支払が先決であるとしてその支払を強く求めると共に、その後の作業を中断し、以後改めて本件試作機について完成の立会或は改造・改良の為の協議等を冨川及び被告に求めることもない儘現在に至っていること

が認められ、これに反する証人猪股恒雄、原、被告各代表者の供述部分は遽に措信し難く、他にこれを覆すに足りる的確な証拠も無い(なお、右溶接は設計に基づくものではなくその後の冨川の指示に基づくものであるとの原告の主張及びこれに沿う証拠の提出は、本件訴訟の経緯に照らし、民事訴訟法一三九条一項に該当するものと認め却下する)。

右事実によれば、本件契約に基づく原告の債務は、ミヨシ製作所時代に畧作成されていた基本的設計図面通りに本件試作機を製作すれば足りるものでは無く、右図面を基礎として本件試作機が開発の意図に沿う一応の性能乃至機能を有する構造となるよう設計し、これに基づいて本件試作機を完成させるものであり、右性能乃至機能を有する構造となるよう設計するについては、製作過程に於ける試運転を通じての或る程度の変更も含まれるものであり、また、信義則上も、被告が一旦は了解した設計に基づき製作したものであっても、開発の意図した一応の性能乃至機能を有することが右図面からは不可能であり、抜本的な設計変更が必要なことが判明した場合には、その点を指摘し、飽くまでも従前の設計を基礎とするか否かについてのその後の対応を協議すべきものというべきである(これに加えて、追加契約についてもその内容及び代金は後日の協議の上清算するとの約定である)から、原告が、ミヨシ製作所時代に作成された図面及び冨川の指示に基づき本件試作機を製作したのに、残代金及び追加契約代金の支払が無いとして、補強ボス付スプロケット分断の原因の究明、その後の対応策等必要な協議を一切行わず、一方的にその後の製作を放棄したことは債務不履行に該当するものというべきであり、被告に残代金及び追加契約代金の支払義務は無い。

2  他方、被告は、本件契約解除に基づく原状回復義務として、支払済の代金七〇〇万円の返還と債務不履行に基づく損害(得べかりし利益)として被告の受注価額と原告への発注価額との差額二八〇万円の賠償を求めるが、(1) 前掲各証拠によれば、右金七〇〇万円は、元々本件試作機作成に必要不可欠の部品購入等の実費分等に該当し、本件試作機が開発の意図した一応の性能乃至機能を有せずに未完成に終わった場合にも、被告に於いて負担し、原告にその返還を求めることは予定していなかったものと推認されるところ、前掲猪股証言等に照らすと、前記補強ボス付スプロケット分断の点を除いては、本件試作機は畧完成の域に達していたものと認められるから、前記認定の通り、その後の製作放棄が原告の債務不履行に該当するとしても、信義則上、被告は原告に右金員の返還を求めることは出来ないというべきであり、(2) 転売利益についても、被告が援用する<書証番号略>は、本件契約締結後に(株)エコノテックから日本ローディング宛に出された本件試作機の見積書であって、(株)エコノテックが日本ローディングから本件試作機の製作を右見積書記載の金額(金一七四〇万円)で受注したこと迄は明らかではないことに加え、前記認定の通り、(株)エコノテックの代表者である冨川が被告の建設機械事業部長に就任したからといって直ちに、(株)エコノテックが受注額と同額で被告に発注したものとも即断出来ないから、右受注額と同額であるとする被告代表者の供述部分は、客観的証拠が欠如している以上遽に措信し難く、他にこれを認めるに足りる的確な証拠も無い。

五訴訟費用の裁判につき、民事訴訟法八九条を適用

(裁判官澤田英雄)

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